17AW テーマ・ストーリー

予言の彼方に

秋になると
大聖堂の庭に並ぶ大樹には
色とりどりの果実が実り始める

やがて収穫が始まると
街は活気にあふれ出し
大聖堂にはたくさんの人たちが
熟した果実を目当てにやって来る

不思議なことにその果実の中には
ひと口食べると頭の中に
未来に起こるであろう出来事が
言葉となって降り注ぐ
「予言の実」が含まれているという

国の民にも旅の者にも分け隔てなく
果実は平等に配られるが
どれが「予言の実」なのかは
食べてみるまでわからない上に
その確率は、偶然見上げた夜空に
流星を見るのと同じぐらいだといわれている

しかも古来よりその類いのメッセージには
難解な言い回しやいにしえの言葉がつきもの
それゆえ、もしも予言が降り注いだとて
自力で解読するのは、まず不可能なのである

そこで“彼”の出番だ

彼の仕事は、その実を食べた人たちから
フレッシュなうちに予言を聴き取って
秘められた深意を導き出すこと

常日頃から言葉の下ごしらえを怠らず
時には解釈にウイットを効かせ
時には行間に潜むアクを取り除き
いかなる予言であろうとハッピーに仕上げる彼を
人々は敬意を込めて「予言料理人」と呼んだ

彼が料理した予言は枚挙にいとまがないが
例えば3年前、青い月の夜に彼を訪ねたのは
旅の途中に大聖堂へと立ち寄った絵描きの男だった

『夜空にオリオン現れるとき
無数の虎が空より来たりて
龍の力で大地を支配するだろう』

道中でも「予言の実」の噂は聞いていたものの
まさか自分に降り注ぐとは夢にも思わなかったようで
もしやこの国に天変地異が起こるのでは、と
我が身に降り注いだ予言に怯えを隠せずにいた

やがて彼は、男からその予言を聞き終えると
素材を吟味するように話し始めた

「東洋には、オリオン座を立ち上がった虎の姿と見る
イマジネーションに優れた国があるといいます
虎は神の使いでもあります。ならばたくさんの花束で歓迎しましょう
解釈に心が落ち着かなければ、涙を流しても構いません
ただし上を向いて。見上げれば、いつもそこには空があります
空に昇った涙は龍、つまりは水神の導きで大地に降り注ぎ
みんなの心を潤してくれるはずです」

話を聞き終えると
男はすっかり落ち着きを取り戻していた
それどころか頭の中のキャンバスに
美しい虎たちが見渡す限りに戯れている
幻想的な風景を思い描いて
ワクワクが止まらなくなっていた

やがてその場がハッピーな空気に染まると
彼は友人のジャーナリストに一報を入れ
自ら料理した予言の一部始終を面白おかしく語り始めた

すると数時間後には
彼のハッピーな予言が
見出しに踊るニュースペーパーが刷り上がり
独特としか形容しようのない
個性的なワッペンをつけた配達人によって
光の速さでみんなに届けられた

予言を独り占めしないのが
彼の何より素晴らしいところだ

そのおかげでこの国では
果実と同じように分け隔て無く平等に
絵描きの男と同じワクワクを
みんなで味わうことができるのだ

あの夜から3年の月日が流れたいま
大聖堂へと続くメインストリートの両サイドには
無数の虎たちが楽しそうに戯れているかのように
美しい縞模様をかたどった
色とりどりの花々が見渡す限り咲き誇っている

その絶景はいまや世界中に知れ渡り
たくさんの人たちがこの国を訪れるようになった
彼の料理は花だけでなく
無数の笑顔までをも、この国に運んできたのだ

大切なのは予言ではなく、その向こう側にある言葉

彼が「予言料理人」と呼ばれるようになって以降
この国の国民総幸福量はうなぎ上りで
もはや100%に届きそうな勢いだ

そう、彼は知っていたのだ
言葉には人をワクワクさせるチカラがあることを
言葉には人を動かすチカラがあることを

どうやら今年は、この国始まって以来の大豊作のようで
明日もきっと、ハッピーな1日になりそうだ


fin


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